固定電話が消える町

静岡県田方郡函南町の北部、丹那とその周辺は町の中心部から約3キロほど離れているが、酪農などを中心とした産業があるどこにでもあるごく普通の田舎町である。同じ地域の別荘地には約1000世帯が定住している。
今この町で固定電話サービスが廃止されようとしている。

そもそも固定電話は電気、ガス、水道、放送、郵便などと共に国民生活に不可欠なものとして提供義務のあるユニバーサルサービスのひとつである。もし特定の場所でそれが廃止されるならば、それは地域差別と言えるだろう。
ではなぜその国の制度で保護されているはずの固定電話が廃止される危機にあるのだろうか。

■アナログ回線の2025年問題

2000年の「E-ジャパンの構想」、2010年の「光の道構想」、今まで何度も政府は光回線の利用率100%を目指す計画を打ち立ててきた。
しかしそれらは、はっきりとした理由なくフェイドアウトしていったのが現実だ。

固定電話の話に光回線が出てくるのは多少違和感を感じる方もいるかもしれない。しかし、このふたつには密接な関係がある。
2016年、NTT東西はアナログ交換機の製造終了を決定した。
NTT内部の変更なので利用者は気づいていないかもしれないが、光回線の整備された地域では、これまでのアナログ回線から光回線に切り替わっている。

問題は光回線がまだない地域である。
アナログ交換機の寿命は約8年間。そのため、2025年頃には現在のアナログ固定電話は使えなくなる。
アナログ回線の維持のため年間100億円の赤字を出しているため、おそらくはその前にNTTはサービス終了をアナウンスするだろう。現在の唯一の歯止めはユニバーサルサービス制度だけだ。

■ユニバーサルサービス制度の危機

ユニバーサルサービス制度があるから、そうはならないと楽観視はできない。

総務省の「通信利用動向調査」によると、昨年末の固定電話の世帯保有率は75.7%と過去最低を更新、20代世帯は11.9%まで落ち込んだ。情報通信政策研究所がまとめた「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2014年)では10─20代の平日利用率は1%に満たず、固定電話をほとんど利用していない実態が浮かび上がっている

〔焦点〕固定電話に迫る「2025年問題」 NTTを悩ますサービスの前途
https://jp.reuters.com/article/idJPL3N1071D620150820

携帯電話の普及により、もう固定電話は生活に必要不可欠なものとは言えないだろうという理屈であり、この考えに総務省も一定の理解を示している。
たしかに一見合理的な判断のようにも思える、しかし、これは切り捨てる側に都合のいい一方的なロジックである。

たしかに現在では携帯電話でも通話はできるだろう。
インターネットへの接続もできる。しかしその性能には比較にならない開きがある。

■「光の道」から分断される陸の孤島

整備の進まない地域を切り捨て、政府は次の段階に進もうとしている。
IoTとAIを軸とした第4次産業革命である。

様々な機器がインターネットに繋がり、人々の生活を豊かにする技術が今後ますます一般化していくだろう。
一人暮らしの高齢者の見守りといった人の命にも関わる分野にも進んでいくだろうし、それがあることを前提とした介護制度などに変わっていくことが予想できる。

これらは決して夢の未来ではない。それが標準となり、そうでなければ不便になる未来である。

アナログ回線のタイムリミットが決まった今、函南町はやっと重い腰を上げ2018年1月15日に「インターネットの利用状況を聞く連絡会」を開催する。
光回線を実現するための話ではなく、あくまで現状の確認である。
これからの道のりは長い。

光回線実現委員会 吉原英文