静岡県の盛り土条例改正案に重大な問題があります。
それは、既に林地開発許可を受けている案件には条例を適用しないというものです。
他の法令や判例に倣えば、工事に着手しているものを除外するのが妥当です。
しかし、今回の経過措置ではそれ以前の許可取得の段階で適用除外としているのです。
なぜこのような事業者の利益を優先する経過措置を入れる必要があるのでしょうか?
この疑問を静岡県に質問したところ下記の回答がありました。
静岡県の回答は「事業者の法的地位を尊重するため」?!
○○様
日頃より、県の都市行政に関心をお寄せいただきありがとうございます。
先日、○○様から、令和4年2月定例会に提案している静岡県盛土等の規制に関する条例案附則第4項に関し、条例の施行の際法令の許可を受けて着工に至っていない工事について、同条例の許可に関する規定を適用しないこととしているのは法律論として間違っているとの御意見をいただきました。
この御意見に対する県の考えについてお答えいたします。
静岡県盛土等の規制に関する条例において、盛土等について許可制を導入し、申請者により必要な準備を行い、基準を満たした場合に許可することで、申請者に盛土等を行う法的地位が与えられることとなります。
法令において一定の行為に規制がかかる場合、許可等の法令上の課せられた必要な手続を終えたときには、行為をしようとする者に適法にその行為を行う法的地位が与えられ、行為をしようとする者には行為を行うことができる期待が生じるものと考えます。
適法に得られた法的地位及びそれに基づく期待は尊重するに値するものであ
って、条例案附則第4項は、それらを尊重するために規定したものであり、妥当なものと考えております。
また、このことについては、法律的に問題がないことを法律相談により確認しております。
なお、最高裁平成18年3月30日判決は、当該事案における建築基準法第3条第2項の「現に建築の工事中の建築物」の判断を示したものと解します。
県の考えについては、以上のとおりであります。今後とも、県政への御理解と御協力をお願い申し上げます。
令和4年3月16日
静岡県交通基盤部都市局土地対策課長 上原啓克
自己矛盾している回答文書です。
開発関係法令が施行の日、規制対象になるかどうかは事業者にとっても住民にとっても重要な問題です。
日本の憲法をはじめとする法体系において遡及適用は禁じられています。
それでは、どの様な段階に至れば遡及適用になるか説明致します。
開発関係法令で規制しているのは開発行為(盛土行為など)です。
その行為とは、工事に着手していることを指します。
この工事の着手であるとの判断は日本の司法、つまり最高裁判例や下級審判例により、その考えが定着しています。
法律や条例が規制するのは、規制対象行為を規制するのであって、関係法令の許認可は、単なる準備行為にしか過ぎません。
これは判例で示された考えです。
司法の常識なら、書く必要はない
これらの理由から、本年3月17日成立予定の静岡県盛土条例は、施行日までに工事に着手していなければ規制対象になるところ、わざわざ附則の経過措置で適用除外にしています。
県が主張するとおり遡及適用になるなら附則の経過措置に規定する必要はありません。
それでは、何故、附則の経過措置に規定したか?
それは自ら遡及適用にはならないことを認めていることになります。
都道府県市町村には条例制定権があります。
それに伴い解釈運用権があり、この度の件は、この運用権により条例適用外にしているものです。
この様な附則の経過措置は、全国的に存在します。
何故なら、事業者の財産権などを守るための配慮な訳です。
それでは、この度の条例について、その配慮が必要か?
という問題があります。
国交省と鳥取県は工事に着手していなければ適用対象
因みに、国交省は本年4月成立予定の改正盛土法がありますが、その様な配慮規定はありません。
熱海の土石流被害があった後、全国で鳥取県が盛土条例を制定しています。
国交省や鳥取県に質疑しました。
結果、いずれも法(条例)が施行の段階で工事に着手していなければ適用対象になります。
「許認可を取得していても工事に着手していなければ適用対象です」と明快に回答を頂きました。